兵庫の家
兵庫の家は、神戸で古くから司法書士をされているKさんの事務所付二世帯住宅である。阪神大震災で全壊した事務所付住宅の再建にあたって、ハウスメーカーにプラン作成を依頼されたが、満足されずアルキメラに設計依頼されることになった。
全壊した建物の写真を見せていただいたり、思い出をお伺いするうちに、Kさんの生活観の中に全壊した住宅が大きな存在感を占めていることに気が付いた。先代の建てられた住宅は、町屋造りの木造住宅で、中庭のある開放的な造り。当時では珍しい洋風の柱やステンドグラスのあるしゃれた建物であった。震災の記憶から、建物の構造はRC造を望まれたが、生活の再建と継承のために中庭を生かして事務所と親世帯、子世帯をつかず離れずの関係で分離し融合する案を提案した。
また、ご高齢のKさん、足の弱い奥様に配慮し、室内の段差を無くし、廊下を広くするなど、将来車椅子の生活になっても、自由に活動できるようにした。寝室に隣接した浴室やトイレは、高齢の方のみならず、現代の生活には、ふさわしいレイアウトと思われる。上下の移動にはホームエレベーターを提案したが、生活の質の向上の為には、贅沢品とはいえないだろう。
各住戸の各階にトイレを設ける等、住宅設備に費用を掛ける一方、内装材料は、車椅子の走行にも耐える耐久性、掃除のしやすさを最優先に選択した。
震災直後の建設物価の高騰で、数社からとった見積りは予算を大幅にオーバーしたが、仕様変更と見積のチェックで、建物の質を落とすことなく、何とか予算内に納めることができた。
解体した住宅から取り外された、ステンドグラスは、新しい住宅の玄関を飾っている。これから、世代を経ていっても、その輝きは、各人の思い出の中に住み続けることだろう。

写真撮影・山田 宰
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