古民家改装S邸
 
S邸は、築後約60年の農家であった。20年程前に土間をダイニングキッチンに改装されたのだが、その時、木目調のプリント合板で壁を被い、土間の上の吹き抜けも天井で隠してしまっていた。台所の設備も古くなったので再度改装したいということで相談を受けたのだが、Sさんは、子供の頃の吹き抜けの土間空間を懐かしんで、吹き抜けを再生させたいと希望された。戦時中の普請で良い材料は使えなかったとお伺いしたが、自分の山から切り出したという柱や梁は黒光りして傷みもなく充分使えるものであった。
まず、現在の建物の実測調査を行い正確な図面を作成した。また建物の間取りの変遷をお伺いし、後から付け加えられた部分を特定し改造できる範囲を調べて設計に取りかかった。
S邸の最大の問題点は、何度かの増築で、家族が集う空間であるLDKが窓のない通路空間になってしまっている事だった。何通りかの提案の後、窓に関しては開閉式のトップライトで光と通風を確保する事、動線に関しては台所を中央に配置し、ダイニングとリビングを分離する事で解決した。また増築により無くなっていた勝手口も復活させた。厨房は、特殊な形になったので既製のシステムキッチンでは対応出来なかったので特注したが、流しの下部を開放して市販のワゴンを使う等の工夫でかえって安価に製作出来た。
3年前の離れ増築の際は、「工務店に直接頼んだので知らない間に出来てしまった」と不満を持たれていたが、今回の改装では、きめの細かい打ち合わせと、工事監理に「思い通りのものが出来た」と感謝された。又、設計施工では一式勘定になりがちな予算管理を、設計監理をする事でクリアーにできることに驚かれていた。
LDKの中心でカウンター越しに生活を切り盛りされている奥様には、「使いやすくなったし、何より、毎朝朝日の中で生活が始まるのがうれしい」と喜んでいただけた。
現わしになって息を吹き返した力強い柱や梁は、これからも、この家族を見守り支えていくことだろう。

写真撮影・新極 求
(C)Archimera Architects Office. All rights reserved.