西脇の家
 
京都市の南、向日市にある「向日の家」は、築40年の民家の改装です。伝統的な平面のこの家は、庭に面した最も良い場所に二間続きの座敷があり、家人は日のささない北側の台所と茶の間を中心に生活していました。ご主人のリタイアを契機に老後の住み良さとバリアフリーを求めて、生活重視の平面計画となるように、水回りと開口部の改修を中心に改装の依頼を頂きました。
まず、和室を北側に増築し茶の間の替わりとし、台所と茶の間を一室の大きなLDKとしました。台所をアイランド型にすることでキッチンの収納量を増やすと共に、シンク前の壁をガラス戸にして、台所仕事をしながら、座敷越しに庭の緑が楽しめる様にしました。ダイニング部分には新たにトップライトを設け、東からの朝の光が差し込むようにしました。時間の経過と共に東から西へ光の変化が楽しめるようになりました。エアコンの風が苦手の奥さんの為にLDKには、床暖房を設置しました。
水廻りでは、洗面ユーティリティを増築し、第2の玄関である勝手口を立ち話が出来る程度に広くしました。今まで外にあった洗濯機を室内に入れるのが奥さんの願いでしたので、洗面と一体になった広く明るいユーティティーとしました。前栽とのバランスで緩やかにカーブした格子に包まれたこの増築部分は、既存の建物と、改装部分を繋ぐアクセントになっています。
伝統工法のこの家は、筋交いが要所に入っているものの、構造的には、通常の計算方法では耐力壁が不足していました。ただ、丁寧な大工仕事でしっかりした土壁が胴差まで届いていましたので、土壁の強度を計算出来る限界耐力計算法を使い、土壁を構造要素として積極的に評価することで、安全性を確認した上で、既存の壁を取りLDKを一体的な大空間とし、補強が必要な部分では、土壁と同じ挙動をする「荒壁パネル」を使って既存部分との構造的な整合性をとりました。
家と生活の記憶を継承する為に、増築部分、大規模改装部分と空間の骨格はそのままに内装のみ新しくした部分と手をつけなかった部分が、素材感で等しく感じられる用に考慮しました。背比べの跡が残る茶の間の柱は、美装を掛けずに、そのまま収納の柱として残しました。
新設したトップライトをはじめ、効果的に配置された窓からの光で、家の裏側に追いやられた生活空間が家の中心と意識できるようになったと思います。

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