服部の家
 
 
夫婦とは、一組のカップルであると同時に、独立した二人の個人でもあります。
この家のテーマは、「善と悪の家」。
お施主さんご夫婦の家に対する志向が、全く異なる(しかもどちらも頑固)という設計者には難しい条件でした。
生活と家事全般を担当する奥様の空間を「善」。娯楽を司るご主人の空間を「悪」と位置づけ、それぞれ「○」と「×」のシンボルをあててプランニングしました。
奥さんが管理する台所、ダイニングは「善」の領域。ご主人が支配するリビングは「悪」の領域です。掃除も各自で行なうという徹底振りです。それ以外にも、それぞれ、パパの間とママの間と名づけられた個室も持ってます。扉には、アクリル棒で○と×のシンボルが埋め込まれています。
その両者をつなぐのが「要の間」と呼ばれる玄関ホールとペットの柴犬さくらのいる「さくらの間(玄関)」です。善と悪の領域の間にあるパブリックな空間(来客と犬の目)のおかげで、両者の関係がスムーズになっています。
善と悪といっても、子供達にとっては、「勉強しなさい」と強制する善は容易に悪にもなる訳で、その関係は一様ではありません。子供達はその時々で、居心地のいい場所に移動しているようです。
これだけだと、非常に険悪な雰囲気ですが、実際は、奥さんのテレビを見ながらのアイロン掛けは、リビングで行なわれているし、食事は家族そろってダイニングです。頑固なだけで、本当は仲の良い家族なんです。
ご夫妻が、唯一意見の一致した点は、木の質感を生かした家にすること(もちろん、アルキメラに設計を依頼すること)。
無垢の木をふんだんに使った室内は、善悪二元論になりそうな室内空間を自然を感じさせる統一感で包んでいます。
居心地が良くて、来客がなかなか帰らないというのが、今の悩みということです。

写真撮影・新極 求
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