生駒の家
生駒の家の周囲は、昭和40年代に造成された住宅地で、ゆったりした区画割りに比して道路は狭く、成長した樹木に囲まれて、窮屈な印象を受ける。これは北向きの斜面に造成され、それぞれが趣向を凝らした擁壁が立ちあがっていることにも依るのだろう。
敷地は、住宅地を貫通するバス通りに面する角地で、北へ下るバスの車内から見ると、敷地の中まで見通せるような印象を受けた。
そのこともあってか、グラフィックデザイナーである施主から示されたスケッチは、中庭を囲んだコートハウスであった。画像で表現することを生業とする人らしく、言葉で伺う以上に希望する空間が表現されていた。そのスケッチを実際の空間へいかに昇華させるかが、我々の仕事となった。
ほぼ正方形の敷地の中央に配置された円形の壁は、敷地の4角を開放することで周囲への圧迫感を減少させることとなった。また、左官仕上げの円形の壁と直線の真壁を室内外に貫入させることで円形の壁で囲い取られた内部と外部である中庭、前庭を空間的に入れ子構造にして、内外の境界を曖昧にし、空間に奥行きを与えることとなった。
中庭を中心に配置された諸室は、床高さや天井高さを変化させることで、同じ庭を見ながらも、微妙な景色の違いを演出している。中庭に植えられた孟宗竹は、中庭を通して対面する居間と和室の間を結び且つ隔てる役割を負っている。
円形の壁は当初RC造を予定していたが、コストの関係で見送られ、杉のバラ板を曲げながら貼る方法で木造で実現することが出来た。構造格子と共に、構造的要素と意匠的な要素を兼ね備えることで、無駄のない緊張感のある空間表現が可能になったと考えている。

写真撮影・新極 求
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