西脇の家
 
「1500万しか予算がないんですわ」飾り気のない性格のSさんとの出会いは、そんな一言から始まりました。要求された条件は、外断熱の家にすること、できたら自然の素材を使いたいこと、そして、「ツバメが巣をかけたらええなぁ」と前代未聞の内容でした。ローコストになるのは仕方ないとして、性能を落とさずにどこまでのことが出来るか、住まいに対するストレートな思いと、ざっくばらんなお人柄に、いいものが出来そうな予感を感じて計画がスタートしました。
そうは言っても設計が始まると、あれもこれもと希望が広がります。将来の家族構成の変化への対応などを考えて暗礁に乗り上げかけた時もありましたが、結局、「今、住みたい家を作るしかない」という原点に戻って、かえってシンプルなプランとなりました。
コスト効率を考えて、建物の平面は、4間四方の正方形とし、湿気の出る浴室部分のみ外に突き出しました。普通は北側になる浴室をあえて南に持ってきたのは、水周りをまとめるという現実面からの理由もありましたが、「一風呂あびて」と生活のアクセントになる入浴をもっと家の中心に持ってきたかったからです。
南に面して大きく開いた開口の先には、居間の面積に匹敵するデッキがつけられました。室内の延長であるデッキによって、LDKのスペースは、実際の面積以上の広がりが得られました。このデッキは、駐車スペースに向かってそのまま階段状に繋がっています。アウトドアが好きな一家ですから、玄関からでなく、居間からデッキごしに荷物を愛車の4躯にほり込んで出かける、というシーンを想像してのレイアウトです。
内部では、床、柱、梁に杉の無垢材を使いましたが、コストの関係で、天井は構造用合板(FC0)の現しです。プレカットでなく手刻みで作られた架構は、この家の最も贅沢な部分かもしれません。
施主さんの人柄を見込んで、内装や塗装工事のかなりの部分を自主施工にしました。杉で出来た生成りの住宅を住みこなしてもらうには、出来上がった家にポンと引っ越すよりもなにか作る作業に参加してもらいたかったからです。
外構工事はこれからですが、メダカの池や雨水利用と思いは広がっています。庭に緑が茂る頃には、きっとツバメも引っ越してきてくれることでしょう。

写真撮影・新極 求
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