高砂の家
「高砂の家」のある高砂市は、播州平野の東部を流れる加古川の河口に位置し、古来、水運で栄えた街である。丹波地方を源流に播磨地方に流れる加古川は、水運の用は無くなったが、この地方の水利をまかなう大河である。
「高砂の家」を木造で計画するにあたり、現代の木造とは何かということを考えた。新建材の張りぼての木造でもなく、銘木をふんだんに使った数寄屋でもない。木を木として最も適した方法で使いたい。住人にとって最も健康で快適な材料として使いたい。そんな想いをこの計画に込めたいと考えた。生産管理することでリサイクルできる唯一の材料としての木材と、水源を守る等、地域環境保護の大きな一環としての地場産材使用の接点は加古川の流れを通して一気に結実した。伐採期にある加古川上流の丹波地方の杉材を使用する事で林業と都市生活の接点を象徴的ではあるが作りたいと考えた。
施主さんご夫妻は、共に地元の教員であり、地域の文化に付いての造詣も深い。我々のこの提案にすっかり賛同され実際に産地の山まで木を見に行かれ、地元産の材料を使うことに共感を示された。他にも高砂染めの渋紙や宝殿石(竜山石)等、地元産の材料を使用する事となった。
「高砂の家」の敷地は、間口5m、奥行35mの町屋型の敷地である。3世代6人家族の諸室と画家でもあるご主人のアトリエを明確に分離するためにアトリエと母屋を中庭をはさんで分離した。またアトリエのある2階をパブリックスペースと設定し、母屋でも居間・台所・茶の間を配置し、中庭を渡るブリッヂでつなげた。母屋の中央には、大空間の階段室(図書室)を設け通風・採光・交通の接点とした。
梁間方向に短い平面形の為、耐力壁が空間を分節してしまう事になるが、構造格子を耐力壁に採用する事で空間を一体化し、構造と意匠の結合を計った。構造金物として使ったD-ボルトもまた地場産の技術である。
伝統技術の再評価により木構造の自由度が広がってきている。「高砂の家」でも仕口や継手に金物と一緒に伝統的な工法をふんだんに使用している。杉材の現わしの家は、久しぶりだと言いながら棟梁も腕を振るってくれた。

写真撮影・新極 求
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